首相の式辞 加害責任を素通りでは(信濃毎日新聞から)

◆次に全文を紹介する。

 安倍晋三首相が全国戦没者追悼式で述べた式辞が国内外で波紋を広げている。
 平和への決意は語ったものの、歴代首相が明言してきたアジア諸国の犠牲者に対する哀悼の意や反省、「不戦の誓い」が盛り込まれなかったからだ。
 首相は終戦の日A級戦犯を合祀(ごうし)する靖国神社への参拝を見送った。かつてなく関係が冷え込んでいる中国や韓国への一定の配慮からと受け取れる。
 けれど、アジアの人々に対する加害の責任と反省を言葉にしなくては、本気で中韓との関係を改善する気があるのか、平和に取り組む気があるのか、真意が問われるのは当然である。
 日本が戦争を始めたことで、他国に甚大な損害を与え、日本国民にも多大な犠牲を強いたのは消すことのできない事実だ。
 アジア各国との和解は今でも日本が抱える重い課題である。経済支援だけでは不十分で、アジアの人々の心に届くメッセージが必要になった。だからこそ、日本の首相はこの20年、哀悼の意や反省を語ってきたのではないか。
 歴代政権が積み重ねてきた和解の努力に水を差すようなことは避けてほしい。
 安倍首相は今年4月、過去の植民地支配と侵略を認めた「村山談話」について、「安倍内閣としてそのまま継承しているわけではない」と語った。中韓が反発し、米国が懸念を示すと、すぐに軌道修正を図った経緯もある。
 安倍首相は式辞で「歴史に対して謙虚に向き合い、学ぶべき教訓を深く胸に刻む」とも語った。が、内容が抽象的で説得力に欠けた。歴史認識に関しては建前と本音を使い分けたり、一貫性がなかったり、危うささえ感じる。
 今回、前例を踏襲しなかったのは、参院選の勝利で安定政権の道筋が見えてきたことで、封印してきた「安倍色」を出そうとしたのかもしれない。「戦後レジーム(体制)からの脱却」への意欲とも受け取れる。
 9月以降、20カ国・地域首脳会合や国連総会、アジア太平洋経済協力会議など、日本と中国の首脳が参加する国際会議が続く。首相はこのところ中国に「対話の窓を常に開けている」と盛んに呼び掛けているけれど、今のような内向きの姿勢のままで関係改善は実現するのだろうか。
 首相が「歴史に謙虚に向き合っている」と内外から認められることが先決だ。言行一致の取り組みを行ってもらいたい。
◆果たしてこの主張は、「正しい」のだろうか。疑問も残ると感じた読者もいたのではないだろうか。