秘密保護法案―福島の声は「誤解」か

◆朝日の社説の一つです。以下紹介したい。

特定秘密保護法案を審議する衆院の特別委員会がきのう福島市で地方公聴会を開いた。

 福島第一原発の事故は日本にとって近年最大の危機だった。その恐ろしさを肌身で知る福島の人たちは公聴会で、口々に法案への懸念を語った。

 秘密より情報公開が重要ではないか――。そんな意見が相次ぎ、自民党の推薦者を含む全員が法案に反対した。

 与党である自民、公明両党は、この事実を重く受けとめるべきだ。

 「情報公開がすぐに行われていれば低線量の被曝(ひばく)を避けることができた」

 浪江町馬場有(たもつ)町長は、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の情報が適切に公開されず、町民が放射線量の高い地域に避難した問題を取り上げた。

 自民、公明両党の委員は「誤解がある」「今回の法案の対象ではない」と反論したが、そう単純な話ではない。

 危急の時にあっても行政機関は情報を公開せず、住民の被曝につながった。その実例を目の当たりにしたからこそ、秘密が際限なく広がりかねない法案のあり方に疑問を投げかけているのではないか。

 法曹関係者は公聴会で「(秘密の範囲について)拡張解釈の余地をきちんと狭めるべきだ」と指摘した。

 特別委員会の審議で明らかになった、こんな事実もある。

 福島第一原発の事故直後、現場の状況を撮影した情報収集衛星の画像を、政府が秘密保全を理由に東京電力に提供しなかったというのだ。

 東電には秘密保全措置がないから、画像は関係省庁だけで利用した。代わりに商業衛星の画像55枚を4800万円で購入して東電に提供したという。

 情報収集衛星は災害目的にも使われるはずだった。それが肝心のときに「秘密」にされた。

 公聴会の出席者に自民党議員は「どうぞ信頼していただきたい」と述べた。どう信頼すればいいのか。反対意見を真摯(しんし)に受け止めるべきだ。

 地方公聴会を、みんなの党日本維新の会を含めた4党による衆院通過に向けたアリバイづくりにしてはならない。

 福島県議会は10月、法案への慎重対応を求める意見書を出した。「もし制定されれば、民主主義を根底から覆す瑕疵(かし)ある議決となることは明白である」と訴えている。

 与党はもう一度、考えたほうがいい。福島の人々の懸念は、ほんとうに「誤解」なのか。