「まつり」の食文化(角川選書:2005発行)

■「年中行事と冠婚葬祭は、同じか」という質問にどう答えるか。答えは違う。年中行事は、毎年同じ時期に決まってくり返される行事であり、冠婚葬祭は不定期の行事である。ところで、近年、年中行事の発生の事由をたどることが困難になってきている。都市生活者にとっては特に著しく、夥しい。
■かつて人々は、自然と対峙して暮らしていて、生活の向上を図ろうとして知恵や工夫をしてきた。その工夫や知恵は発達していたが、自然の異変を克服することはかなわなかった。現在でも農業や漁業にたずさわってみれば、異常気象がいかに災いをなすか、理解できる。自然との関係が正常なことを切望し不正常なことを回避したい、とする気持ちが分かるはず。じつは、年中行事の発生と継続の最大の理由は、そこにある。
■今日、急激な社会の変化が、その年中行事の継続が危機に瀕している。何か見落としている。身近な行事や飲食から、日本人の日本人たる姿がみえてくる。
作者は、「はじめ」の中で著作の意図を書いている。この内容の概略を目次立てから記せば次のようになる。
■序章まつりと飲食(行事もまつり、民俗学と食文化)第1章正月と盆(鏡餅と雑煮、さまざまな正月習俗)第2章節供と節分(豆まきだけが節分ではなし、屠蘇酒と七草)第3章春祝いと秋まつり(御輿と神楽がまつりの華ではあるが、八朔の祝い、となっている。
■作者:神崎宣武氏(1944生、民俗学者岡山県宇佐八幡神社宮司、「江戸の旅文化」「うつわを食らう」「酒の日本文化」など)は「おわり」で、「私は、日本の民俗文化の根枯れを恐れる。根枯れをまるで恐れないかのごとく、まだなお都市への集約化を進める政治や経済のあり方に憤りをおぼえる…」と書かれてある。
■作者の意図は、自分が今なすことは、ここにあると宣言しているように思う。